いこおきいこssまとめ - 3/3

!隠岐くんの死ネタ注意!
いつか書き直したいネタなんですが、これ書いていて悲しくなったのでssのままお蔵入りするかもしれません。

***

「おう、水上。元気やったか?」

「イコさん……俺は変わらずですわ。まさかこないなことになるなんて、思うてもみなかったですけどね。」

「せやなぁ……」

水上と生駒のチームメイトだった隠岐孝二が、29歳という若さで事故死したのは、つい二日前のことである。
通夜が一日遅れてしまった理由は、友引を避けたからだと家族から説明を受けた。
三十路も手前というところまできてしまうと、学生時代と比較していろいろと状況は変化している。
チームメイトで未だボーダーに残っているのは南沢海のみで、隠岐以外の三名はすでに退職して家庭を持っていた。
水上がチームメイトだった真織と結婚したのは三年前で、すでに子どもも二人いる。
仕事の関係で地元に戻った隠岐が、実家で暮らし始めたのは一年ほど前からだった。

「マリオちゃんは元気にしとるんか?」

「元気っすよ。子どもを幼稚園に迎え行ってお義母さんに預けたら、急いで来る言うてましたわ。」

場所は、隠岐の実家にある彼の部屋。
形見分けをしたいということで、通夜が始まる数時間前に二人は呼び出されていた。
二人共、喪服に身を包んでいる。

「海は通夜には間に合わせる言うてましたわ。遠方やから、一応遅れるかもしれへんってご家族には伝えてあります。」

すると、部屋の扉が叩かれた。

「どうぞ。」

水上が応えると、扉が静かに開いた。

「すみません、早くに呼び出してしもうて……。あなたたちのことはよう孝二から訊いてましたから、少しでも覚えておって欲しくて……。形見分けなんて、今時迷惑やったかな?って思うたんですけど。」

「迷惑なわけないやないですか。お気持ち感謝します。後ほどうちのも来ますので、まずはお話だけでも……」

隠岐の部屋は、物が少なくてしっかりと片付けられていた。

水上が隠岐の母親と話している中、生駒はふと何かに目を止めた。
それは、隠岐がよく好んで聴いていたバンドのCDだった。
音楽はすでにデータ配信が主流になってしまっているが、若い頃からすきだと言っていたので捨てられなかったのだろう。
何となく手に取ってジャケットを開くと、歌詞カードの間から一通の封書が出てきた。
故人の物を物色するのはよくないと思い慌てて戻そうとすると、裏に宛名が書かれている。

「俺宛てやん。」

「イコさん?何してはりますの??」

水上が振り返って生駒の傍まで歩み寄る。

「勝手に触ったらあかんでしょ。」

「すまん。でも、俺宛てやねん。」

「は?」

水上が生駒の手元の封書に目を留めると、確かにそこには『生駒達人様』と書かれている。
それを見た水上が、何かを言おうとして口をつぐんだ。

「水上、何か知っとるんか?」

「あ~~~……いや、そのっ、……」

本人に真実を告げてしまうのは、故人にとって酷な気がしてならない。
水上はどうしようか悩んだ。

「俺からは何も言えへんので、とりあえずそれはイコさんが持っといてください。隠岐のおふくろさんには、俺から伝えときますから。」

「おん。」

生駒は水上の言葉に従い、その封書をポケットにしまった。

水上が南沢の姿に気づいて手を上げた。

「海っ!!こっちやで。」

南沢海が通夜に顔を出したのは、21時を過ぎた頃だった。

「海、ほんまあんたは……ネクタイ曲がっとるで。」

「マリオ先輩、ありがとうございます!!」

遠目から見て、海に対して少し落ち着いた印象を受けた他三名だったが、南沢の落ち着きのなさは健在だった。
真織が南沢のネクタイを直している横で、生駒が水上の肩をつついた。

「俺やっぱあれ読むわ。多分、俺が知らんあいつの秘密が書かれとるんやろ?隠岐はあんま自分のことペラペラ話す奴やなかったからな。まぁ今から何かできるとは思えへんけど。」

「……あんたがそう決めたんなら俺は何も言えへんですよ。話なら俺が訊きますから、ご両親には黙っといてあげてくださいね。」

「おん。」

生駒は硬い表情のまま頷いた。

「せっかく久しぶりに集まったんやし、通夜が終わったらどこかに飯でも食いに行きません?」

水上の提案に、生駒が頷いた。

「ええな。マリオちゃん何食べたい?」

「うちは何でもええよ。今日は遅くなっても平気やから……海は?」

「おれも何でもいいっす!!でも何でもいいって言うと水上先輩が困るから、オムライスに一票!!」

「ほんならオムライス食いに行こか?車は俺が出すから、海は今晩うちに泊まって行き。」

生駒が車を出して、水上がナビをする。
南沢がはしゃいで、真織がその世話を妬く。
いつも通りの様子に笑みを浮かべる隠岐の姿は、残念ながらここにはなかった。

「隠岐、俺結婚することになってん。」

ボーダーを退職後、生駒は祖父から実家の居合道場を継いでいた。
道場関係の仕事をメインにこなしながら親戚の仕事を手伝っていた時期に、隠岐から会えないかと連絡が来たのだ。
隠岐もこの時期すでにボーダーを退職して、そこそこの有名企業に就職し、普通に仕事をこなして一人暮らしをしていた。
隠岐の職場は転勤が多かったため、二人は会えることが少なくなっていた。

「結婚……ですか?おっ、おめでとうございます。」

「何や、道場の跡取りがいつまでも独身でおったらあかんって言われてな。……まぁ、そのな、……じいちゃんが、もう永くないねん。」

「そうでしたか……。」

そうこうしていると頼んでいたアイスコーヒーが二つ運ばれてきた。
隠岐はその中にミルクを注ぎ、くるくるとストローを回した。

「イコさんが選んだ人やったら、ええ人なんでしょうね。落ち着いたらおれも会うてみたいですわ。」

「そりゃ勿論やろ?ていうか式しろってじいちゃんが煩いから、式も呼んでもええか?」

「あ……」

隠岐は一瞬言葉に詰まり、目にうっすら涙を浮かべてうつむいた。

「何や?腹でも痛いんか??」

「いや、そりゃ勿論ですよっ!!日程決まったら教えてください。」

何か様子がおかしいと思いつつも、この時の生駒は特につっこまなかった。
しかし先ほど手紙には、その答えがはっきりと書かれていたのだ。

「マリオ先帰り。俺ちょっとイコさんに話あんねん。海はイコさんとこ泊まるんやろ?」

「そうでっすっ!!」

「明日の朝には電車で帰るから……悪いな。」

水上の心痛な面持ちに気づいて、真織は小さく頷いた。

「わかった。」

食事を済ませた後、真織を先に家に帰して、他三名は生駒の車で彼の実家に向かった。

「結果的に俺もお世話になることになってすんません。」

「いや、……そないなことはええねん。」

南沢が後部座席で眠ったのを確認して、水上は口を開いた。

「さっきの手紙、開けました?」

「おん。」

「そういうわけなんですわ。」

「……おまえは知っとったんやな?」

「まぁ……そうですね。まだボーダーにおった頃に、作戦室で思いつめた顔しとったから……話訊いとっただけですけど。」

生駒の表情は暗くてよく見えなかったが、少し目が潤んでいるのが水上にはわかった。

「あんたが気にすることやないですよ。隠岐はあんたがドノーマルなの知っとったから、黙っとったんですし。」

「俺……あいつに結構無神経なこと言うとったんやない?」

「……そうやないって言うてあげたいとこですけど……そこは否定できませんわ。」

信号が赤に変わり、生駒がブレーキを踏んだ。

「もし隠岐の気持ち知っとっても、あんたができることはなかったと思いますよ。」

「せやなぁ……」

生駒の涙腺がとうとう崩壊してしまったため、近くのコンビニに車を止めた。
ぐっずり眠る南沢を横目に、二人は車を降りた。
生駒が外で鼻水をすすっていると、水上がコーヒーを二本買って店を出てきた。

「少しは落ち着きました?」

水上がコーヒーの栓を開けて、生駒に手渡す。

「おん……」

生駒は濡れた目元をぬぐってそれを受け取った。

「隠岐は、あんたが自分のためにそないに泣いてくれはるとは思うとらんかったと思いますよ。」

そう言いつつも、水上の目も少し潤んでいた。

「そないに俺、薄情に見えとったんか?」

「そうやないですって。もしかしたら、今頃告っとけばよかったとか思うとるかもしれへんって思うたんです。」

空になった缶を捨てて車に戻ると、南沢が目を覚ました。

「あれぇ?もう朝ですかぁ……?」

「まだ夜やで海。おまえも仕事明けやし疲れとったんやろ?もう少ししたら着くから、そこで寝とき。」

「ふぁい……」

水上に促され、南沢は素直に目を閉じた。

「ええなぁ隠岐は。その顔なら女子が放っとかへんやろ?」

「そないなことないですって。」

「ここだけの話、彼女とかおるんか?」

「おりませんて。……でも、すきな人ならおりますよ。」

「何っ!?せやったんか……ええなぁ。おまえに想われる子は幸せやなっ!!」

「おれはイコさんに想われる子の方が、幸せやと思いますけどね。」

「いやいやいや~~~!!女子はイケメンがすき!!これは鉄則やろ。」

「イコさんの良さがわかる女の子だって絶対おりますって。おれが女の子やったら放っておかへんですよ?」

「ほっ、ほんまに??何や、イケメンに言われるとドキドキするやん……」

「だってかっこええですやん。優しいし、面白いし、男らしいし……嫌う要素なんかないですよ。」