The greatest glory in living lies not in never falling, but in rising every time we fall.

幼稚園に通っていた頃に、『将来の夢』というタイトルで絵を描かされたのはなぜかよう覚えとる。
せやけど、あの頃何を描いたのかは実はあんま覚えてない。
けど、幼心に夢は叶うもんやと信じとっただけ、お気楽なもんやったとは思う。

「水上、飯行かん?」

「あれ?もうチャイム鳴った?」

「珍しくボケとんな……先生とっくに出てったで。」

「マジか。」

連れと食堂に行くと、当たり前やけどすでに座席はほぼ満席やった。
少し出遅れたしな……仕方ない。

「俺、席取ってくるから、頼んでええ?」

「ええよ。何するん?」

「せやなぁ……日替わりAセットで。金これで足りるやろ?」

連れに金を余分に渡して、空いている席を探す。
ちょうど通路側が二つ空いとったから、向かいの椅子に学ランを引っかけて座って待つ。

「おばちゃん、カレー大盛りで。サラダも付けてな。」

「あいよ。」

意図せず声の方に視線が向いた。
会話はしたことないが、知っとる人やった。

「何見とるん?」

しばらくして、連れが盆を二つ抱えてやって来た。

「さんきゅ。……生駒先輩。あの人目立つから、ようここで見るなと思うてな。」

「ははっ、俺少しやけど喋ったことあるで。何やつかみどころのない感じの人やったわ。」

「ふぅん……」

釣銭を受け取り財布に仕舞ってから、おしぼりで手を拭いて、手を合わせる。
ふと横目で生駒先輩の方を見ると、何人かの友人とわいわい言いながら美味そうにカレーを頬張っとった。
何や悩みなさそうな感じでええな……なんて、失礼なことを考えてしまう。
人を見た目で判断したらあかんのはわかっとるけど、あの人は遠目から見てもいっつも楽しそうやから。

高校一年の夏に、俺は将来の夢に掲げていたプロ棋士を断念した。
それから何をしても満たされへんけど、人生こんなもんかもしれへんなと、半ば諦めていた頃やった。

「水上敏志っておる?」

件の生駒先輩がなぜか俺を訪ねてクラスに顔を出したのは、それから一週間くらいした頃やった。

「水上は俺ですけど……」

読んでいた本を閉じて、おずおずと教室の入り口に向かって行く。

「プロ棋士諦めたって聞いたけど、ほんま?」

何や、初対面やのに人前でズカズカとプライベートなこと言うてくるな……。
俺は自分のことをペラペラと吹聴するタイプやないんやけど、こういう情報はなぜかどっかから漏れてまうのが世の常や。
更に大阪人は総じて距離感が近いからな……もう慣れたけど。
こいつも人伝に訊いただけやろうけど、何やムカつくわ。

「あの、ここやと人もおるし、別のとこで話しません?」

「おん?せやな。ほんなら今日の授業が終わったら迎えに来るから。宜しくな。」

すぐ終わるような話じゃなかったんかぁ~い!!
なしてわざわざたった十五分しかない休み時間に三年の校舎からここまで来たんかは、このときの俺には全く知る由もなかった。

「ほんで、俺に用って何ですか?」

校門の前で生駒先輩と待ち合わせをして、二人で駅前のファストフード店に入った。

「あ、俺の名前は生駒達人って言うんや。皆はイコさんって呼ぶから、イコさんでええで。」

イコさんは持っていた学生カバンから、何やら書類が入った大判の封筒を取り出した。

「あ、知ってます。あんた有名人やし。じゃあイコさんって呼ばせてもらいますね。」

俺も鞄を隣りの椅子に置いて、持っていたコーラのストローに口を付ける。

「そうなん??」

生駒達人。
俺のひとつ上で高校三年。
出身は京都やって話やけど、そのボケっぷりはその辺の大阪人と比較しても抜きん出とると言われとる。
更にスポーツ万能のくせにどこの運動部にも所属していないため、「困ったときのイコさん」なんて呼ばれとることは知っとった。

「まぁええわ。単刀直入に訊くけど、俺と三門市に行かへん?」

「は?」

何の前触れもなくそう言われても、頭がついてくるわけがない。

「三門ってあの三門っすよね??」

「三門市って日本に他にもあるんか?」

イコさんは、先ほどの茶封筒を俺に差し出した。
中身を確認すると、『界境防衛組織ボーダー』という文字が目に飛び込んでくる。
正直ぎょっとした。

「まさか……あんたボーダーに入る気なんすか?」

「まぁ、俺も迷ったんやけどな、直々に家までスカウトにやって来て、延々口説かれてもうたからなぁ。」

満更でもない感じでぽりぽり頭を掻いている様子から、直にスカウトされたという話は本当らしい。
ボーダーからスカウトって、そうそうないことくらい俺にでもわかる。

「なして俺なんすか?」

「将棋ができる奴に馬鹿はおらんと思うたからや。まぁ、じいちゃんの受け売りやけどな。」

「……できる言うても、あんたが言うようにプロはとうに諦めたんですけどね……。」

今一番突いて欲しくない部分をガスガスと突かれて、正直俺のライフはもうゼロや。

「その資料は渡しとくわ。返事は急いでへんし、とりあえず考えといて。」

「とりあえずって……返事はいつまでにすればええんですか?」

「年内とか?早いならそりゃ嬉しいけど、家の人とも話さなあかんと思うしな。」

んな適当な……。
このときの俺は、なして俺がこの人の目に留まったのかよう理解できへんかったし、何よりも生駒達人という人をナメとったと思う。

三門市に突如現れた異世界のゲート。
そしてそのゲートからやって来た異世界の住人近界民が、多くの人を殺して浚ったニュースは、瞬く間に全国に広がった。
確か三年くらい前の事件やったから、俺はまだ中坊やったし、他人事のような気持ちでそのニュースを観ていたのを覚えとる。
知り合いや家族が三門に住んどったわけやないから、直接俺が被った被害はなかったしな。

「敏志、将棋辞めるって本当?」

「せやんなぁ……プロは俺には向いてへんわ。」

「ええ!?ここまで頑張ってきたやん!!」

「俺も悔しい気持ちはあるで。でも、人生そう甘くなかったっちゅうことや。」

この幼馴染がプロ編入試験に合格したとき、俺にはこの道は無理やと悟った。
プロ棋士になるだけやったら、多分俺にもできるやろ。
でもその先で勝ち続ける自信は正直なかったし、大人になるいうことはそういうことなんやと割り切るフリをした。
内心は未練タラタラでこんとき人生の目標も失ってもうたから、はっきり言って今は生きる屍や。

「なぁ母ちゃん、俺がボーダーに入るって言うたら止めるか?」

「ボーダー?ああ、三門の??あんたあんな危ないとこに行く気なん!?」

「まぁそうなるわな……。」

帰宅するなり、早速母親に例の案内資料を見せて尋ねた。

「大勢亡くなったって言うし、母ちゃんは反対やな……。」

母親は封筒を開けてリビングのソファに腰かけた。
俺も制服のまま、その隣りに腰かける。

「せやろな。訊かんでもわかったわ。」

「せやけど、あんたがどないしてもやりたいなら受け入れるで。あんた、将棋辞めてからずっと元気なかったやん。」

「……元気ね……俺、そんなしょげとった??」

「せやね。あんた顔には出にくいつもりやろけど、母ちゃんにはバレバレや。父ちゃんも同じこと言うんやない?兄ちゃんは多分、面白そうって食いついてきそうやけどな。」

「まぁでも、まだ俺自身決めかねとるいうか……俺が行って何になるんやって話やし。そもそも言うほど体力にも自信ないしなぁ……もう少し考えるわ。ありがと。」

母親から書類を受け取り、二階の自室に向かう。
学ランを脱いで、私服に着替えた。

「何や今日は疲れたな……」

そんでベッドに横になり、見慣れた天井を見つめて目を閉じた。

「水上、あの件決めた?」

食堂でうどんをすすっとったら、イコさんがやって来て隣りに座った。
今日はいつも一緒に騒いどる人らはおらへんみたいや。
正面に座っとる連れは、「いつの間に仲良うなったんや?」みたいな顔しとる。
昨日知り合ったばっかやで。

「あんた、昨日の今日なんですけど?年内に決めたらええって言うてたやないですか。」

「まぁそうなんやけど……おまえが来ぉへんってなると、またイチから仲間募らんとあかんねん。」

「そんな急かされたら行きたくなくなるんすけど。」

「マジで??ほんなら二日にいっぺんにするわ。」

「二日にいっぺんも多いと思いますよっ!?」

何や疲れるなぁ……って思うて連れの顔を見ると、何か声出して笑うとるし。
人の気ぃも知らんとほんま……。

「前向きに考えとりますから。」

「ほんまに?ありがとう!!」

何や、表情はかったいのに、愛嬌はある人やなぁ……毒気消されるわ。

「なぁなぁ、何の話?」

連れが食後のお茶をすすりながら、俺の方を見る。

「ああ……ここは人がおるし、後で話すわ。」

「そういや生駒先輩、訊きましたよ!!今度の文化祭で居合の演武されるんすね!!居合って俺興味あるけどなかなか手ぇ出んから、観させてもらお思うてて。」

連れの一言に、イコさんはもぐもぐしながらうなずいた。

「おん。せやねん。まぁ頼まれたから少しだけな。うちはじいちゃんが居合教えてて、最初は半ば強制的に習わされとったんやけど、だんだん面白くなってな。血は争えんわぁ。」

せやからボーダーにスカウトされたんかな?
ここでは訊けへんけど。

「へぇ……あんた方々の部活でヘルプしとってなしてどこにも所属しとらへんのか疑問やったけど、家で居合習っとったからやったんすか?」

訊くと、イコさんはまたもぐもぐしながらうんうんとうなずいた。

「まぁな。サッカーとか興味あったけど、高校サッカーはガチやろ?帰ってじいちゃんに付き合えへんと、本気で拗ねるからなぁ……。」

「そう言うて付き合うてあげとるのは偉いっすね。」

素直にそう思う。
俺は自分のために将棋やってて、自分の限界を感じて辞めたから……じいさんのためにそこまでできるのは純粋に凄い。
だって高校の三年間なんて、永い人生考えたら一瞬の青春時代やん。
まぁ、今は楽しんどるみたいやけど。

「さよか?」

「そう思いますよ。何や、ちょっと見直しましたわ。」

つかみどころは確かに難しいけど、やっぱ悪い人やないし……ボーダーの件、ほんまに前向きに考えたろかなぁ……。

「そない言われたら照れるやん。別に特別なことしてへんで?」

「居合なんて、高校生でやっとる奴なかなかいませんて。充分特別やと思いますけどね。」

二年と三年が一緒になるのなんて、昼休憩のときか文化祭か運動会くらいやから、あれからイコさんとは食堂で一緒になるくらいやった。
そういえば連絡先も交換してへんかったな……とふと気づいて、携帯を交換したのは昨日のことや。
まぁイコさんも忙しいみたいやから、連絡を取り合うこともそうなかったんやけど。

「イコさんの演武、そろそろ始まるよ。」

「えっ!?もう?」

この文化祭で、うちのクラスはあろうことか女装喫茶をすることになり、俺は似合わへん女装を強いられた挙句給仕までさせられるハメになった。
リボンの付いたカチューシャに、ヒラヒラの付いた女物のエプロン。
その上どこから仕入れたのかサイズぴったりのややゴシックロリータ調の洋服を着ている……。
もう正直今すぐ俺を殺して欲しいほどの屈辱ではあるが、クラスの男共は皆同じ思いなので何も言えへんかった。

「委員長、悪いけど時間や。上がってもええ?」

「うん、おつかれ~!!」

更衣室に行って着替える時間もないため、泣く泣くこのままの恰好で連れと体育館に走った。

「あ、今始まったとこみたいやね。」

息を切らしながら、体育館の扉をくぐる。
人はそこそこ多いのに、シーンと静まり返った体育館の中心に、イコさんは立っていた。
袴姿はほんま様になっていて、時代劇にでも出てきそうな風体やった。
普段はマイペースやし、人の迷惑お構いなしやし、あんなボケとんのに……。
その静かな空間で声もなく刀を振るうイコさんは、いつもとは別人やった。
光を反射する刀身を緩やかに鞘に納める動きに、息を飲む。
ああ俺、あんな凄い人に必要とされとったんやな……なんて、急に調子がええと笑われるかもしれへんけど……。

「凄かったな、水上。」

連れにそう声をかけられるまで、微動だにできなかった。

「居合って、声とか出さへんのやな。何か思うてたより静かやった。」

そんでもって出た感想がこれや。
もっとないんかいっ!?とセルフツッコミ。

「せやな。何かいっつもうるさい人があんな大勢の人の中心で刀振るうの観ると、別の人みたいに思えるな。」

連れとそんな会話をしていると、周囲の冷たい視線に気づいてハッとした。

「俺もお前も女装したまんまやん。はよ更衣室行こ。」

人がはけだした体育館から二人で立ち去ろうとしたそんとき、背後から名前を呼ばれた。

「おう、水上!えらいかわええ恰好しとるやん。観に来てくれたん?」

袴姿のイコさんがこちらに駆け寄って来た。
普段のボケっぷりから、袴の裾を踏んで転ばないか少し心配したけど、さすがにそんなことにはならなかった。

「……かわええとか言わんでくださいよ。恥ずかしいんですから。」

かっこいい居合の後にこんな姿見られて、顔から火が出そうになった。

「俺ら女装喫茶やったんですよ。もう当番終わったんで、これから少し学内回ったら帰るつもりやったんです。」

そう言いつつ、ナース姿で恥ずかし気もない連れがちょっとだけ羨ましい。

「そうなん?あ、俺のクラス焼きそば作ってんけど、食うていかへん?」

「行きます行きます!!行くよな?水上。」

「ええよ。」

反対する理由はなかった。
腹もすいた頃やしな。

「ほんなら決まりな。俺も着替えたらうちのクラスの焼きそば屋で落ち合おか。」

着替えてから帰り支度を整えて、連れとイコさんのクラスの屋台へ向かった。

「おっ!!来た来た。俺の奢りやから、食べてってな。」

「ええんですか?」

尋ねると、俺と連れの手の上にタッパーが二つずつ乗せられた。
何や中身も他のと比べるとめっちゃ詰まっとるし、大阪人らしいサービス精神やな。
この人京都人やけど。

「おん、ええで。今日は繁盛やったしな。」

「生駒くん、その人達食べ終わったらお店閉めるよ~?」

「おん。」

店の奥から女性の声がして、イコさんは奥の方へ引っ込んで行った。
俺は連れと、食事用のスペースの椅子に腰かける。
タッパーと一緒に渡された割り箸を割る頃に、イコさんが戻って来た。

「水いるか?」

「「ありがとうございます。」」

水の入った紙コップまで貰うて、至れり尽くせりや。
ご馳走になった焼きそばは思うとったより美味くて、イコさんのクラスの女子の手腕が伺われた。
まぁ焼きそば不味く作るって逆に難しそうやけど、世の中にはほんまもんの料理音痴は存在するからな。

連れが黙々と焼きそばを口に運ぶ中、俺はぴたりと箸を止めた。

「そういや俺、あんたの誘いに乗ることにしました。」

人はもうまばらやし、連れにはボーダーのことはもう話してある。
傍に人がいないことを確認した上で、話を切り出した。

「ほんまにっ!?」

「ほんまです。」

「ありがとうっ!!」

「案内資料読みましたけど、ボーダーってチームで動くんすね。俺、隊長はあんたがええですわ。」

イコさんは少し表情を崩した。
俺はそんなに意外なことを口走ったんか?

「戦術考えるんは水上やで?おまえが隊長でええんやない?」

「いや、隊長はイコさんで。この条件が通らんのやったら、俺はこの話降りますわ。」

すると、腕を組んだイコさんはあっさりと条件を飲んだ。

「まぁええけど。いやぁ、おまえが来てくれるみたいでほんまよかったわ。」

「それとオペレーターの他にあと二人探さんとあかんですね。」

「あれ?三人編成じゃあかんの?」

「四人おったら数だけでも勝負できますよ。ポジションもバランスよく、近距離二人、中距離一人、遠距離一人欲しいっすね。何やボーダー内でもランク戦があるみたいやし、勝ち残るためにバランスのええチーム作りましょ。」

そんなわけで生駒隊がおいおいできるわけやけど、それはまた別の話や。

防衛任務も終わり、イコさんは隊長会議にそのまま出席。
海はもともと今日は休みを取っていて非番。
マリオは用事がある言うて、さっき急いで帰って行った。
俺が作戦室に残って書類を書いとると、奈良坂に呼ばれとった隠岐が戻って来た。

「水上先輩、一緒に帰ります?」

「せやな。こっちもちょうど終わったし、一緒に帰ろか。」

PCの電源を落とし、椅子に引っかけていたパーカーを着た。
鞄は持ち歩かない主義やから、机に置いていた財布だけポケットに入れた。
隠岐は換装を解いてからジャケットを羽織ると、ボディバックを身に着けた。

「お待たせしました。」

「せっかくやし、お好み焼きでも食いに行く?」

「ええですね。行きましょ。」

そういうわけで、俺らはお好み焼き屋『かげうら』に向かった。

「よう考えたら、俺にトリオンの適性がなかったらあの人どないしてたんやろ?」

「何の話です?」

隠岐がお好み焼きのタネをぐるぐるとかき混ぜながら、こちらを見た。

「いや、俺ボーダーに入るきっかけはイコさんに誘われたからなんやけどな、こっち来て適性が人並みにあったからよかったものの、もしなかったらオペレーターとかになっとったかもなぁって。」

「あ~~~、確かに。ほんでもオペレーターやったら指示やサポートに集中できるから、水上先輩なら敏腕オペとかになっとったかもしれへんですね。」

「そう言うて、奢って貰おうて思うとるのがバレバレやで隠岐。」

「バレましたか。」

ぺろっと舌を出しつつも、隠岐は手際よく鉄板の上に種を流し込んだ。

「そっちもやりましょか?」

「いや、いいわ。俺がする。」

まぁあの人のことやから、その辺はあんま深く考えんと誘ってきたんかもしれへんな……。

俺はボウルの中身をかき混ぜて、鉄板の上に流し込んだ。
肉は先に焼いとったから、最後に平たくしたタネの上に並べて置いた。
じゅわ~~~という焼ける音と、美味そうなソースの匂い。
地元ではあんま進んで食うことはなかったんやけど、地元離れた途端にお好み焼きを食べる頻度は増えた気がするから不思議や。

「カゲは今日はおらんのか。」

店に入ってから一度もあいつの顔を見ていない。
家にいるときは店に立っとることが多いから、今日は防衛任務か何かやろか。

「若くして挫折を味わったら、あとはいいことばっかやろって言うてましたよ。」

「何の話や?」

隠岐が頬杖をついて、こちらを見つめる。
ほんっま憎たらしいほどのイケメンやな……。

「イコさんが、水上先輩のことをそう言うてました。」

「さよか。」

イコさんかてまだ十九やのに、何おっさんみたいなこと言うてんねん。
何や笑えてくるやんけ。

「あれ?俺何か変なこと言いました?」

「いや?……この先ええことばっかなんてことはありえへんとは思いつつも、毎日楽しそうにしとる人に言われると、不思議とそんな気ぃしてくるわ。」