水マリのssなので、苦手な方は飛ばしてください。
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「水上はすきな子とかいないのか?」
「え?」
急に訊かれて、水上はどう応えていいかわからなかった。
いるにはいる……いるにはいるが……
「鋼、珍しいやん。おまえが恋愛トークとか。今日は槍でも降るんか?」
村上鋼は顔色ひとつ変えず、「いや、そういうわけじゃ……」と目を逸らした。
「はは~ん、俺にそういうこと訊くっつうことは、自分の話を訊いてもらうためやな?ちゃうか?」
水上はピンときて、村上の肩を抱いて耳元で囁いた。
「ええでええで。恋愛も頭使うてした方が成功率は上がるから、この俺に任せてみ!」
「水上、違うんだ……」
「何?違うた?」
「俺はそのっ、頼まれて……」
差し出されたのは、一通の可愛らしい封筒だった。
宛名には「水上敏志さま」と書かれている。
明らかに女の子の字だ。
「何?誰から?」
「多分、中に書いてある……渡したぞ……」
水上が手紙を受け取ると、村上はくるりと踵を返した。
「ちょい待ち!!」
「わっ!?な、何??」
「今日帰り奢るから、バーガークイーン寄らん?」
「いいけど……俺、今日夜は防衛任務があるから、それまでなら……」
「充分充分。」
水上はとりあえず手紙を大切に鞄に仕舞って、中身は見ないままその日の授業を終えた。
「まだ開けてなかったのか?」
「仕方ないやん。こんなのもろうたことないし、そもそも悪戯の可能性だってある……」
ファストフード店の二階で、水上は村上の目の前で手紙の封を切った。
中身を晒すのは悪いと思いつつも、カミソリとかが入っていたら嫌だな……と疑ってしまうモテ経験ゼロの水上だった。
「何て?」
「いや、ほんまにこれ、ラブレターやったわ……あかん、どうやって断ろか……」
「普通に断ればいいんじゃないか?すきな人がいるって……」
「せやけどなぁ……」
すきな人は、いるにはいる。
いるにはいるが……
「多分俺のすきな人、俺のこと別にすきやないねん。」
「そうなのか?」
村上は少し考えてから、顔を上げた。
「その手紙の子のことがすきじゃないなら、断るべきかなって俺は思う。」
「せやな……俺もそう思うわ。」
「告白されたからとりあえず付き合うっていうのは……俺はあまりすきじゃないから……」
「せやな……おまえならそう言うやろな……。」
水上は手紙を鞄の中に仕舞って、立ち上がった。
「悪かったな、時間取らせて。」
「いや、大丈夫だ。」
「ちわ~。」
水上が生駒隊作戦室に顔を出すと、まだ細井真織しか室内にいなかった。
細井はPCで、何やら作業をしているようだった。
「何や?マリオだけしかおらんの?」
「ウチだけで悪かったな。」
「別に悪かないけど……」
正直気まずさはあった。
例のすきな人というのは、細井のことだからだ。
「マリオはさ、誰かすきな人とかおる?」
「はぁっ!?」
急な質問に、細井は面食らったようだった。
しばらく口をパクパクさせてから、「そんなんおらへんわっ!!」と耳まで赤くした。
「まぁマリオにすきな奴がおったらバレバレやろから、おらへんのはわかっとる。」
「それも失礼なんやけど。」
「俺さ、今日……ラブレターもろうてん。」
細井が、驚いた表情を向けた。
「へ、へぇ~、相手は可愛いんか?てかラブレターて、古風やなぁいまどき。」
「残念ながら相手の顔はよう知らん。せやけど、可愛かったら付き合うてもええかなって思うててん。」
水上は、何となくカマをかけただけだった。
細井の反応も期待はしていない。
実は、細井の反応によっては、本当にラブレターの女と付き合ってみるのもアリかなとも考えていた。
「ほっ、ほんまに言うとるんか?」
「え?」
水上は細井の反応に驚いた。
茶化されるか、どうでもいいと言われるか……とにかく水上の感情を肯定するような回答は得られないと踏んでいたからだ。
「な、何?俺が他の女の子と付き合うたらあかんの?」
「それは……」
そこでタイミングよく、自動ドアが開いた。
「おつかれさん~」
生駒達人の声に、水上ははっとして振り返った。
「イコさん、早いですやん。」
「おん、5限の授業が休講になってん。あれ?マリオちゃんもおるやん。マリオちゃん具合でも悪いんか?」
「いや、大丈夫でしょ。今日は防衛任務ないし、溜まった書類片付けましょ。ほらマリオ、おまえもこっち来て手伝って。」
「う、うん。」
「何や雰囲気おかしない?まぁええわ。そういやさっきお菓子買うたんやけど、隠岐と海が来たら皆で食べへん?」
生駒は、そう言いながらロッカーを開けて鞄を押し込んだ。
そして早速換装体になる。
「ええですね。俺ちょっとジュース買うてきますわ。」
「おん、頼むわ~。」
生駒隊作戦室を出てしばらく速足で進んでから、水上は急に廊下の端でうずくまった。
(何やあの反応……)
絶対脈なしだと思っていた相手はそうでもなかったのだ。
水上は耳まで赤くして、しばらくその場から動けなかった。